恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
「そうだろうね。だから由宇くんは……また梓織が自分を忘れていたらと思うと怖くて、ここにいられなかったんだろう。
中学一年の時、梓織に、誰?って聞かれた時の由宇くんの顔は……お父さんも忘れられない」
それを聞いた瞬間、いても立ってもいられなくなってベッドから下りた。
「由宇は部屋? 私、由宇と話してくるっ。ちゃんと覚えてるからって……もう、絶対忘れたりしないからって……。
そう言ってくる……っ」
落ち着きなさい、もしかしたらそんな風に言われてしまうかもしれないとも思ったけど。
お父さんは微笑んで、そうした方がいい、と背中を押してくれた。
バンっ、と壊れるんじゃないかってほど勢いよく開けたドア。
視界が開けた瞬間……。
私の部屋の前に座り込んでいる、由宇に気づいて。
ゆっくりと視線を上げた由宇。
由宇の、不安を浮かべる瞳と目が合うや否や……何かを考えるよりも速く、気付いたら抱きついていた。