恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
座り込んでいる由宇を包み込むようにしてしがみついた私に、由宇は驚いたのかしばらく何も言わなかった。
そんな由宇に、抱きついたまま言う。
「由宇……忘れたりして、ごめんね。
忘れた事も忘れてて……ごめん」
私が謝っても、由宇は何の反応もなくて。
どうしたんだろうと不安になって顔を見るために離れようとした時、由宇の腕が背中に回ってようやく由宇の声が聞こえた。
「俺……あの時の事、ずっと後悔してたんだ。なんで、梓織と他のヤツを間違えたりしたんだろうって……。
いくら風邪引いてたからって……梓織を間違えた自分がずっと許せなかった」
「由宇は悪くないよ。私が……私が、弱かっただけ」
「いや、おまえが弱いのなんて知ってたんだし、俺が気を付けるべきだった」
「だから……由宇は私を不安にさせないように、誰も自分に近づけさせなかったの?
私が、やきもちとかそんな気持ちを感じないように……?」
「……ああ。梓織が何を引き金に記憶をなくすか分からなかったし。
でも、一度失くした時の事を考えると、失うかもしれないっていう焦りだとかが大きく関係するのは分かってたから。
梓織が何も不安を感じないくらいにいつも傍で守れればって、そう思った」
由宇の言葉を聞きながら、いつか名取くんと話した時の事を思い出していた。
由宇を警察だって言った時の事を。