恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


えっ、と驚いて振り返ると……そこには、私の部屋のドア付近に立つお父さんがいて。
なんだか複雑そうな面持ちで私たちを見るお父さんに、慌ててバっと離れた。

私と由宇の関係を隠しているだとかそんなつもりもなかったけど、だからってこんな風に抱きついているところを見られるのは非常に気まずい。
もっとも、お風呂一緒に入れなんて言うお父さんからしたら、これくらいなんでもないのかもしれないし、そうだったらいいと思いつつも……。

お父さんの何か言いたいけれどなんとか微笑んでいる、そんな顔を見ていると、どうやらお父さんにとってはなんでもない事ではなかったようで。
何か言おうとしてはぐっと耐えて眉間のあたりをぐりぐりと押しているお父さんに、ぐるっと由宇を振り向く。

「もっと早く言ってよ! 由宇はお父さんが見てるの気づいてたんでしょ!
お父さんに見られながらも抱き締めてられるってどういう神経してんのっ?!」
「おじさんも最初は感動の表情を浮かべて見てたんだよ。だからまぁいっかと思って続けてたら、なんかだんだんと怒ってる顔つきになったから」
「当たり前じゃない! 結婚前の愛娘が目の前で男に抱き締められてたら怒りも心頭するでしょ!」
「風呂は一緒に入っていいのに抱き締めるのはダメって意味が分かんねーよ。どういう線引きだ」

結局、ぎゃあぎゃあといつものように口喧嘩を始めてしまった私たちに、お父さんは何も言わなかった。
ただ、何か複雑な思いのこもったため息をひとつ吐いた後、私と由宇を見て、とりあえずよかったなと微笑んで。

そして、その一部始終をこっそりと覗いていた星崎さんに、ご飯にしようと声をかけた。

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