恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


それは多分、私の勘違いなんかじゃないと思う。

さっき由宇が冗談半分で言った10年って時間は、軽いモノじゃない。
その間ずっと、隣に由宇はいてくれたけど、心中では私にいつ忘れられるか分からない不安を抱えてたと思うと……どうしょうもなく苦しくなった。

私は由宇がいないと不安になって息苦しくなったりするけど、由宇はもしかしたら、朝起きる度にそうだったのかもしれない。

由宇がこれ以上ないくらい傍にいるのに苦しくなる胸に、息が上手くできなくなる。
由宇の事を想うあまり胸が締め付けられるなんて、初めてだった。

こんな風に……由宇が愛しくて堪らないと思う事なんて、今までなかったのに。
由宇といてこんなにも切なくなる事なんてなかったのに。

由宇が傍にいてくれるのに、感情のコントロールが上手くできない。
どんどん湧き上がる想いが大きすぎて、身体の中に収まらず、こぼれ出す。

「由宇の記憶を失った私なんて放っておけばよかったのに……。
なんで、また仲良くなろうとしたの?
それに10年も黙ってただ見守ってたなんて……短気のくせに、どうかしてる」

また一から関係を築くなんて、由宇にしたらきっと面倒なだけだ。
それに、もしも忘れられてショックを受けたのなら……。私だったらまた同じショックを受けたくないあまり、きっともう必要以上に近づかなくなる。


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