恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
由宇が床についている手に、自分の手を重ねる。
由宇が手のひらを返して握り返すから、床の上で手を握っている状態になった。
「ごめんね」と素直に謝った私が相当珍しかったのか、由宇が驚いた顔をして私を見る。
「私なんかより、由宇の方がずっとツラくて苦しい思いしてたんだね。
私……全然気づけなかった」
しん、とした空間。
そこに由宇が、一呼吸置いてから呆れたような笑いを吐く。
「そうでもねーよ。大体、どっちが苦しいかなんて比べるもんでもねーし。
まぁ俺は男だし、梓織がツラい思いするなら俺が全部抱えてた方が安心するから」
「……そういうところ、本当に勝手だよね。いっつもひとりで私の事だけ守ってて」
しかも多分、私が実感しているよりもずっとずっと、由宇は私を守ってくれてる。
「悔しいな」と不貞腐れた顔で言うと、由宇が笑う。
「いいんだよ、おまえはもう十分ツラい思いしたんだから。あとは俺で」
「そんなの嫌。私のモノまで勝手にとらないでよ」
「別にいいだろ。俺の方がそういうキャパが広いんだから。おまえに持たせておくとすぐキャパオーバーして壊れるのが目に見えてるし」
「でも私だって中学の頃より成長してる……っ」
「おまえがツラいと、俺はもっとツラいんだよ。
だから梓織にはもう……嫌な思いは何もさせたくない」