恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


そうきっぱりと言い切る由宇に、一瞬言葉を失う。
いつも憎まれ口ばかりを叩く口から出たとは思えない優しい言葉と想いに、唇をきゅっと噛みしめた。

「お父さんの事、もう甘いってお説教できないよ」

何も言えなくなってしまいそんな事を返すと、由宇は「そうかもな」と笑う。

「おまえは知らなかったかもしれないけど、俺は元々梓織に甘いんだからもう仕方ねーよ」
「……知ってたよ、そんな事。ずっと前から」

由宇が私に甘いって事くらい。
そう呟いてから由宇をじっと見つめる。

「そんなに私が好きなのに、好きだとか言わなかったり、恋人って関係を強制しなかったのは……私から手を伸ばすのを待っててくれたから?」

由宇はしばらく私を見てから微笑む。

「おまえが手を伸ばしてそれを振り払われた事で傷ついたのを知ってたから。
おばさんとの事があってから、何に対しても自分の希望だとかを口にする事も手を伸ばして欲しがる事もしなくなったのは知ってたから……。
いつか、おまえから手を伸ばしてくれればいいと思ってた。
トラウマを克服して初めて手を伸ばした先にいるのが、俺だったらって」
「ずっと、待つつもりだったの……?」


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