恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
「勇ましいな」
「そうでしょ」
「まぁ、梓織に勇敢に戦ってもらわなくても、その前に他の女になびくようなぼーっとした間抜けな男でもねーけど」
そう言って笑う由宇の手を、ぎゅっと握る。
そして、視線がぶつかったところでハッキリと言った。
「由宇はもう、何も心配しないで。私はもう平気だから……自分のために生きて」
由宇は目を逸らす事無く見つめていたけれど。
そのうちに「勘違いすんな」と困り顔で微笑んだ。
「俺がおまえの傍にずっといたのは、おまえのためじゃない。
俺がそうしたかったからそうしただけだ。全部、自分のためだし、多分そのスタンスはこれからも変わらない」
「でも、由宇だってやりたい事とか色々あるでしょ? それなのに10年も私の隣にいて就職先まで……」
「大体、俺がそんなお人よしのヤツに見えるか?」
「正直全然見えないよ。けど、本当は優しいの知ってるし……」
「男にとって、就職先なんて一生ついて回る大事なもんだって、梓織だって分かるだろ」
「え? まぁ、うん」
急にそんな話をし始めた由宇を不思議に思いながら見ていると。
「まぁ、そういう事」と由宇が笑う。
自嘲するような、そんな笑みだった。