恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
私はその日、帰ってすぐにプレゼントしようとしていたバックをクローゼットの奥に隠した。
ちょっとした手違いで、由宇の欲しがってたシルバーに黒のラインのものじゃなくて、黒に青のラインのを買っちゃってたし、これ渡したところで色が違うってどうせ由宇に責められるだけだし丁度よかったと色々理由をつけながら。
でも結局、「プレゼントないんだってば!」って私の言葉をまったく信じない由宇に部屋に突入されてものの五分で見つけられてしまって。
「俺が欲しかったのはこの色じゃねー」ってやっぱり言われて。
だけど、高校三年間、由宇は私から奪ったバックを使い続けた。
そういう優しいところがまた、人気に繋がるんだろうけど。
「珍しいね、姫川その手の噂いつも興味ないのに。
なに、知り合い?」
隣でお弁当のフタを開けながら広兼さんが言う。
昼休みの食堂はかなり賑わっていて、ほとんどの席が埋まっているようだった。
食堂っていっても食べ物は提供されないから、各々持参したお弁当やコンビニで買ったものをテーブルに広げている。
「知り合いっていうか……」
一緒に住んでるって事を素直に言いそうになって、待てよと思う。
私は別にいいけれど、うちに居候してるなんて由宇は言われたくないかもしれない。
いくらお父さんが強く勧めたからだって言っても、あまり聞こえはよくないかもしれないし、次期社長に名前があがっているお父さんに気に入られてるなんて知られたら、由宇の仕事にも影響してきそうだ。
「さっき、見かけて」
だから咄嗟に嘘をつくと、広兼さんがそれに食いついてくるから焦る。