恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
ケースはB4サイズで課の間を行き来している書類が十枚入ってるかどうかで、重さなんてほとんどない。
それをふたりで持って行くのはかなり不自然だし、と思って断っていると、そんな会話を聞いていた課長が「あ、ちょっと待て」と口を挟む。
そして、デスクの横に置いてあった段ボール箱ふたつを指さして言う。
「これ、午前のメール便で届いたコピー用紙なんだがな、うちが頼んだのに混ざって融資管理課のもこっちに届いたみたいなんだ。
だから届け物ついでにこれも頼む」
ケースを届けに行くだけなんだから、段ボール二箱なんて全然ついでじゃない。
むしろそっちがメインだ。
「姫川、ほらひとつ持って」
「……はい」
思い通りの結果になった広兼さんが、ウキウキした様子で段ボールをひとつ持つ。
まさか広兼さんにもうひとつ持たせるわけにも、他の人に頼むわけにもいかず、仕方なく席を立って段ボール箱を抱えた。
融資管理課っていえば、由宇が配属になった課だ。
どうせそつなくきちんと仕事してるんだろうし、もうそんなの見なくても想像がつくけれど、社内で顔を合わせるのは初めてだって事を思うと……少し楽しみでもあるかもしれないと歩いてるうちに思えてきた。
他人のふりをしようって事はもうメールで伝えてある。
っていう事は、社内で私と由宇の関係はただの先輩と後輩だ。しかも四年も下の後輩。
いつもバカにされっぱなしの身としては、逆転した上下関係は少し面白いかもしれない。