恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―



仕事を終えて外に出ると、既に由宇の姿があった。
会社前にある手すりに軽く腰掛けていた由宇が私に気づいて立ち上がって寄ってくる。

18時10分を回った空は、いつもなら星が見えるけれど、今日は曇っていて薄暗かった。
由宇がいつから待ってたかは知らないけど、隣に立った由宇を思いきり無視して歩く。

その態度で私が怒ってるのが分かったくせに。
特に話しかけるわけでもなく謝るわけでもなくただ隣を歩く由宇に、痺れを切らせて口を開いたのは私の方だった。

「なんで言ったの」

由宇の視線が私を捕える。
これだけ睨んでいれば怒ってるのは分かるのに、由宇はひるむわけでもなく「別に言っても問題ねーだろ」と普通のトーンで答えた。

「どう考えても言わない方がよかったでしょ!
課も違うんだしわざわざ言う必要なんかなかったじゃない」
「どうせ嘘ついて他人装ったところで、おまえ嘘下手だしすぐバレんのがオチだろ」
「そんなのやってみなきゃ分からないでしょ!
バラすのなんていつでもできるんだから、せめて少しの間試してみてもよかったのに……あんな風に普通に話すとかありえない。
あの後周りに色々聞かれたんじゃないの? どういう関係だって答えたの?」
「別に普通に答えたけど」
「普通ってどうに?」

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