恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
由宇はまだあがってこないし、しばらく顔合わせたくないからこのまま部屋に閉じこもっていようと思ったのに。
下から星崎さんの「梓織ちゃん、ご飯よー」って声が聞こえてきて、また深い息を吐いた。
「今行きますー……」
こういう時、同じ家に住んでるっていうのは困る。
ケンカしたっていうのに、ものの数分でまた顔合わせなきゃならないなんて……ものすごく気まずくて困る。
こそこそと階段を下りて、そーっとダイニングの様子を覗いたけれど由宇の姿はなくて。
二階に上がってきた様子はなかったのに下にもいないなんてどうしたんだろうと思っていたところで、後ろから「梓織ちゃん」と声をかけられた。
思わずびくっと肩を揺らした私に、星崎さんが笑う。
「ごめんね、驚かせちゃった?」
「あ、大丈夫……あの、由宇は?」
「さっき帰ってきたんだけどね、家の周り見に行ってもらったの。ただの風だろうけど、外で物音がした気がして嫌だったから。
ほら、昨日痴漢が出たって話でしょ?」
「もしかして、星崎さんが由宇に私と一緒に帰るようにって言ったの?」
だから由宇は私が言った他人のふりを無視してまで一緒に帰ろうとしたのかもと思って聞いたけれど、星崎さんは首を振った。