恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


「ふたりの口げんかにお父さんを巻き込むのはやめて欲しいなぁ。言葉に困る」
「なんで困るの、私がベテラン社員で助かるって言えばいいだけの話じゃない」
「もちろん、梓織が頑張ってるのは知ってるよ。
一年目はどうなる事かと思ってたが、もう立派なうちの社員だ。
ただ……あまり梓織を庇うと由宇くんに甘いって叱られるからなぁ」
「え、由宇に叱られたの?」
「ああ、あまりに梓織に対して甘すぎるって。
まぁ、お父さんが梓織に甘いのも、由宇くんにそれを注意されるのも今に始まった事じゃないけどなぁ。
仕方がないよ、梓織が可愛いのは本当の事だしな」

お父さんはハハって笑うけど、二回り以上年下の由宇にお説教させるなんて笑いごとじゃないと思う。
確かにお父さんは少しぬけてるところも私に甘すぎるところもあるけど、それを踏まえてもおかしい。
齢50になる私のお父さんを捕まえて説教したとかいう由宇を見たけれど、由宇は私の視線に気づいていながら目を合わせようとしなかった。

本当に憎たらしい。

「別に由宇に叱られて黙ってる必要なんかないんだからね。言い返してお説教し返してやればいいのに。
私がずっと言われっぱなしで悔しい思いしてるの知ってるでしょ」

お父さんが由宇をまるで自分の息子のように温かい目で見守ってるのは知ってるけど、本当の娘である私の事を、事あるごとに憎まれ口叩いて言い負かすような男なんだから。
いい加減、お父さんからお説教のひとつやふたつあってもいいと思う。

だけどそんな私の気持ちを汲んでくれるわけでもなく、お父さんは穏やかな口調のまま微笑んだ。



< 4 / 214 >

この作品をシェア

pagetop