恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
由宇はもっと自分の事も考えるべきなんだ。
今日の事だって、社内であんな風に新人が仕事中に私語するなんて普通じゃないし、それを由宇だって分かってたハズだ。
それを分かった上で、私をひとりで帰らせないって事を優先させてあの場で私に話しかけた。
自分の立場よりも、私の心配を優先させて。
そんなの簡単に想像がつく。
研修期間を終えて配属先の融資管理課にきた初日に、仕事中に私語だなんて後で注意されたに決まってるのにそれも言わないし。
本当なら、そこまで思ってくれる事を嬉しく思うべきなのかもしれないけれど、勝気で意地っ張りな性格のせいでほんの少しもそう思えなかった。
由宇が私のために何かしてくれる度に、私のせいでって……なんて落ち込んでしまうのは、ネガティブな性格のせいでもあるのかもしれないけれど、とにかく由宇が何かしてくれる度に負のループに入り込む事だけは確かだった。
無言で夕食を終えたところで、由宇が星崎さんに言われてもう一度家の周りの見回りをして。
見回りなんてものの五分程度なのに、運悪くその間ににわか雨に降られて戻ってきた。
そのままじゃ風邪ひくからって星崎さんに言われるまま由宇はお風呂に入ったから、それを確認してからキッチンで洗い物をしている星崎さんに声をかけた。