恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


「いえ、私はほとんど知らないし関わった事ないから……。
でも、うちの課長に一度すごく偉そうな態度とってた事があったから……課長の方が一回りくらい年上なのにって見てて嫌だったんです」
「あー、確かにうちの課長は多分なめられてるよね。気が弱いし」

広兼さんも課長の事なめてますよね、とボソっというと、まさかーと笑われたけれど、絶対そうだ。
じゃなきゃ、課長がいないのに「別に大丈夫でしょ」とか言いながら課長の印鑑使うなんて事絶対できないハズだから。

そんな会話をしながらついた融資管理課には、由宇の姿はなくてホっと胸を撫で下ろす。

「預金管理課です。メール便が間違ってこちらに来てたので届けにきました」

メール便を持って行くと、いつも一番近くにいる人が取りにきてくれるから、私もその人を見ながら言ったのだけど。
その人が立ちあがろうとしたところで、一番奥にいる横田さんがなぜかそれを止めて自分が立ち上がった。

横田さんは、耳の下で一つに結んだ茶色い髪を揺らしながら、ヒールをカツカツと響かせて私の前まで来てメール便を受け取る。

「ご苦労様」
「……いえ」

ご苦労様って言葉をこんなにも高圧的な態度で言う人も珍しい。
そして、こんなに睨みつけるように見てくる人も珍しいというか……異常だ。眼力が凄まじい。

ここまで悪い態度を取られてそのまま引き下がるのも癪に思えて、私も逃げずに横田さんをまっすぐに見つめ返す。
私よりも10センチ近く背の高い横田さんを見上げていると、横田さんは急にふっと笑みをこぼした。


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