恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
別に頭がよくなりたかったわけじゃない。
ただ、お父さんをガッカリさせたくなかった。
私の出来の悪さを嘆いていたお母さんからいつも私を守ってくれていたお父さんのために、人並みの成績を残したかった。
コンコンとノックが響いたのが先か、ドアが開いたのが先か。
意味のないノックに振り返ると、由宇が部屋に入ってドアを閉めるところだった。
髪が濡れてる。肩にタオルがかかってるしお風呂上りみたいだった。
「今、勉強中」
意味なしノックなんていつもの事だからそこはスルーして。
問題集に視線を戻してからそれだけ言うと、由宇はベッドに腰を下ろしながらタオルでガシガシと髪を拭く。
ベッドの上にうつ伏せで寝ころびながら問題集を見る私の、膝のあたりが由宇の体重で沈んだ。
「へー。なんの?」
「生命保険。ライフコンサルタントになるための試験勉強」
「ふーん。試験はいつ? 来年か?」
私がかなり時期を先取りして勉強を始める事を知っている由宇は、当たり前のように来年という言葉を口にしたけれど。
さすがに、「受けるか分からないけど一応」って私の答えには驚いたみたいだった。
「受けるのが決まってねーのに試験勉強してんのか?」
「うん。だって難しいって言うし。
支店勤務の人はみんな強制されてるし、もしかしたら本店もあるかもしれないから」
問題集を見ながら言うと、由宇が呆れたようにため息をついたのが聞こえた。