恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
そんな風に思いながらぼんやり立っていると、操作ボタン近くに立っているその人からの視線に気づく。
なんだろうと見上げるとしっかりと目が合って……そして戸惑いがちに話しかけられた。
「もしかして、姫川?」
「……そうですけど」
「あ、やっぱり! 乗ってきた時からもしかしてって思ってたんだけど、姫川全然気づいてないっぽかったから違ったらどうしようって思ってたんだ」
正直に白状すれば、多分、久しぶりだと思われる再会に喜んでいる彼が誰なのか、今も分かってない。
だけど、久しぶりだなー!とテンション高く喜ぶ彼を前に、今更聞くのも気が引けるなと思って作り笑顔を浮かべていると、そんな私の心境に気づいたのか、顔に出ていたのか、苦笑いを浮かべた彼に聞かれる。
「あれ? もしかして俺の事覚えてない?」
「えっと……はい。ごめんなさい……誰ですか?」
申し訳なく思いながら聞いた私に、彼はマジでかーと眉間にしわを寄せて笑って。
それから「名取正広だよ」と名前を教えてくれた。
「高校ん時、同じクラスだっただろ? 二、三年って。アドレスも交換した事あったじゃん」
「高校の時……ああ、名取くん! 思い出した!
思い出したけど……名取くんがなんでここにいるの?」
「俺、四月からここに入社したから」
「あ、そうなんだ……。じゃあ四大出てからって事だよね。
由宇と一緒だね。あ、由宇とはもう話したの?」