恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
ダメだ。二言目で既にしどろもどろだと自分でも気づいて、「だから名取くんのアドレス消えちゃったの。ごめんね」と無理やり水没の話題を終わらせる。
これ以上突っ込まれたらうまく答えられないのが分かっていたから。
名取くんがこれ以上、咄嗟に出た嘘の、携帯落雷ののち水没事件にぐいぐい来ませんようにっ!と祈りながら必死に見つめていると、それが伝わったのか名取くんは「そうだったんだ」と呟いて。
それから笑顔を浮かべた。
よかった。あんな下手な嘘だったのにバレてないみたいだ。
由宇相手だったら絶対通用しないのに。
名取くん、案外鈍いのかもしれない。
「交換したのに姫川メールとか一度もくれないから、俺嫌われてるのかと思ってた」
「え、嫌ってないよ。嫌うほど名取くんの事よく知らないし」
「おー……それはそれで傷つく」
「そうなの? ごめん……。でも名取くんだってそうでしょ?」
名取くんと話したのなんて、多分、席が隣だった期間ぐらいだと思う。
特別仲がよかった覚えもないし、本当にただクラスが同じ人ってイメージだ。
だから名取くんがアドレス交換したいって言ってきた時にはなんでだろうって少し驚いたけど。
由宇が、登録件数増やしたいだけだろって言ってたからそうなのかと納得して、だったら別に由宇に消されちゃったとか言う必要もないかと、消えたアドレスの事はそのまま忘れていた。