恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
「そんなとこまで見越して勉強してたら疲れるだけだろ」
「あ、ちょっと……」
背中側から伸びてきた手に問題集を取られて振り返ると、由宇は私の身体をまたぐように四つん這いになっていて。
近すぎる距離にびっくりして、バっと顔を戻してベッドの布団と向き合った。
動揺してる私を、由宇が「なに焦ってんだよ」と笑う。
顔は見えないけど、きっと意地の悪い顔で笑ってるんだろうなっていうのは長年一緒にいるせいですぐに分かった。
由宇の笑い声や言葉だけで、今由宇がどんな顔をしているのかが分かるのは、きっと由宇も同じ事。
由宇の場合は、声のトーンで表情が分かるだけじゃなく、表情ひとつで私の気持ちまでお見通しなのかもしれない。
頭がいい上に、そういうところも勘が鋭いから。
何もかも敵わなくて、本当に頭にくる。
「問題集返して」
布団を見つめたまま言うと、すぐに背中側から「いやだ」と返事が返ってくる。
「そんなの見たっておもしろくないでしょ」
「おもしろくないなら梓織も見なきゃいいだろ」
「別に楽しむために見てるんじゃないもん」
「俺は今楽しみたい」
「だったらゲームでもなんでもすればいいでしょ」
「ちげーよ。梓織で楽しみたいって言ってんの。だから梓織がこれ見てるとできねーだろ」
そう言った由宇が、私の顔の横にそれぞれ手をつく。
そして私の顔を覗き込んで、「真っ赤」と顔色を指摘して意地悪に笑った。