恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
名取くんから預金管理課に内線が入ったのは、それから四日が経った就業間近だった。
『姫川さんお願いします』と聞こえてきた声に、最初は誰だか分からずに黙ると、『あ、吉岡支店の名取です』と付け足されてようやく相手が名取くんだという事に気づく。
「私が姫川ですけど……名取くん? 何か用事?」
由宇が、名取くんが私を好きだとか言うから少し緊張して声がおかしくなる。
でもまだ仕事中だし、まさか私事の電話はかけてこないだろうと思いながら聞き返したのだけど……予想が外れる。
『いや……その、この間の事もあるし、もう一度話せないかと思って』
「この間の事……あ、由宇が失礼な事言っちゃったのはごめんね」
『それはいいんだけど……その、今度はふたりで話したくて』
ダメかな、と聞かれて返事に困る。
だって、隣の席では広兼さんがずっとこっちを見て、堂々と聞き耳立ててるし、それに静まり返ってるオフィス内に聞こえるのはパソコンの起動音と書類をめくる音くらいだから、私の声はみんなに聞こえてしまうから。
支店だって、窓口の閉まったこの時間帯は静かだと思うのだけど……。
その中でこんな電話を普通にかけてきてるとしたらすごくマズイと思う。
ベテランだったらまだ許されるかもしれないけど、名取くんは新人だ。
コーチャーの人は何も言わないんだろうか。