恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
「なに? なんの電話?」
「……なんでもありません」
「嘘だー! ところどころ向こうの声も聞こえてたんだからね。なんかふたりで話せないか的な会話してたじゃない」
気のせいじゃないですかと一応微弱な抵抗はしてみたけれど、それが通用するわけがなく。
仕事一緒に終わらせてあげるからという広兼さんに、残っていた半分の仕事を奪われて仕上げられてしまえば、もう私に黙秘権なんて残っていなかった。
「ほら、仕事終わったんだからさくさく話す」
「でもここ社内だし、まだみんな仕事してるのに……」
「課長ー、残業つけないならここで静かに話してる分にはいいですよねー?
いっつも仕事でも残業つけてないですし場所提供くらい全然問題ないですよね。むしろ手当なしで残業させてる事の方が大問題ですもんね」
広兼さんに嫌味のようなお願いをされて、課長は苦笑いを浮かべながら頷く。
本当に課長は人がよすぎる。
もっとビシっと言わないから、広兼さんにも融資管理課の横田さんにもいいように使われちゃうんだ。
早くと急かす広兼さんに、諦めてため息をついてから名取くんの事を説明した。
同じ高校だった人と昨日偶然会った事と、どうやら私に気があるっぽい事と、それと名取くんが由宇の事を異常だとか言った事。
周りの人の迷惑にならないように、こっそりと。