恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
「もしかしたら星崎さん、姫川が自分から好きだって言ってくれるの待ってるのかもね。
恋愛オンチの姫川が自分からそんな事言い出したら本気だって事にもなるし」
「まさか。だって一緒にいてもう10年ですよ。
由宇は気短いしそんなに長い間ただ待つなんて無理です」
そんな事を言って笑っていると、残っていた人たちが帰宅する準備を始めたから、私たちもそろそろ帰ろうかと広兼さんが立ち上がる。
それから課長にお先に失礼しますと挨拶だけして、広兼さんとエレベーターに乗り込んだ。
「しかし最近楽しいわー」
エレベーターの扉が閉まるなりそんな事を言い出した広兼さんに、何かあったんですかと聞くと、姫川の恋話が楽しいのと言われる。
「今まで姫川ってあまりそういう話しなかったじゃない。
だから恋愛に興味ない淡泊な子なのかなーと思ってたんだけど、星崎さんの出現で一気にその辺の事情が分かってきてすっごく楽しい」
「……そうなんですか」
「恋愛オンチの姫川と独占欲の凄まじい星崎さんとの関係がこれからどう動いていくのかがね。
あ、だからちゃんと進展したら報告しなさいよ」
「10年進展しなかったのにそんな急に進展なんてしないと思いますけど……」
「甘いね。星崎さんがこの会社に入ってきた事でふたりの環境も変わったし、邪魔者もいい具合に出てきてるし、そういうのに影響されて変わったりするもんなんだから。
現に姫川だって色々考える事が出てきてるみたいだし」
そう笑みを向けられて、まぁ確かにと何も言えなくなる。