グッバイ・メロディー


「ドーナツ100円」


学校から駅のほうへ歩いている途中で、いきなりこうちゃんがつぶやいて、足を止めた。

わたしも顔を上げて目線の先をたどると、ドーナツ店の前の赤いのぼりが、アピールしているみたいに風にひらひら揺れていた。


「買っていく?」


訊ねるや否や、高い位置にある頭がこくりとうなずく。

いつもと同じのポーカーフェイスなのに、嬉しそうなのがどうにも隠しきれていなくて、笑っちゃう。


こうちゃんはこんなにクールな見た目をしていて、こんなに寡黙なのに、生粋の甘党なのだ。


いちばんの好物は生クリーム。

生クリームなら喉に詰まらせて死んでもいいって真剣な面持ちで言われたときは、ちょっとさすがにどうしようかと思ったよ。


「せっかくだからみんなの分も買ってってあげようよ」

「えー。食うかな」

「余ったらこうちゃんが食べればいいじゃん」


その一言で見事にこうちゃんの好みだけでセレクトされたドーナツは、結局10個にものぼり、スタジオに入るなりアキくんに「誰が食うんだよ!」とつっこまれてしまった。

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