グッバイ・メロディー
だけどそんなのまったくもっておかまいなしのマイペースすぎるこうちゃんが、ギターさえ放っぽり出して箱を開ける。
とたん、ふわっと甘い匂いが部屋中に漂った。
これは否応なくお腹が空いてくるにおいだ。
「きょう安いんだっけ?」
お行儀よく1列にならんだドーナツを覗きこみながらトシくんが訊ねた。
「そう。食う?」
「もらおうかな。せっかくだし」
シュガーたっぷりのドーナツを選んだトシくんは、こうちゃんと、ついでにわたしにも、王子様みたいに「ありがとう」と微笑んでくれた。
トシくんは、ひとつ年上の、こうちゃんとわたしにとっては同じ高校の先輩にあたる人だ。
いつも優しくて穏やかなのに加えて、最年長なこともあって、みんなのお兄ちゃんみたいな存在。
だけどこう見えて実はベーシストで、楽器を弾いてるときはもう別人みたいにメチャクチャかっこいいから本当にずるいのである。
「アキとヒロは?」
こうちゃんがずいっと箱を差し出すと、ふたりが同じ顔をして同じタイミングで手を伸ばしてきたから、こらえきれずに笑ってしまった。
「おい季沙。なに笑ってんだよ」
と、苺のドーナツを選んだアキくん。
「『似てる』だけは絶対やめてくださいね」
と、抹茶のドーナツを選んだヒロくん。