グッバイ・メロディー
手紙を読んでいるあいだ、こうちゃんはいつにもまして恐ろしいほど無言で、わたしもしゃべらないでその様子を眺めていた。
そのうち、カフェオレがいつのまにかなくなっていた。
やがて長い指が最後の封筒を閉じると、彼はふうと小さく息をつき、やっとわたしの視線に気づいたのだった。
遅いよ。
でも、なんだかすごく幸せな時間だったよ。
「お疲れさま」
やっと言えた。
こうちゃんは疲れきった顔をどこか嬉しそうにむぎゅっとさせ、「おいで」とわたしを腕のなかに迎え入れてくれた。
いつのまにか大きくなった体にうしろからすっぽり包まれたら、自分でも驚くほど安心して、急にわたしのほうが眠たくなってきた。
「久しぶり」
低い声が耳元で、たった5音だけを噛みしめて言う。
「これでひと段落?」
「ぜんぜん」
肩まですとんと降りてきた顔が、小刻みに横方向に動いている。
「ていうか春休みほとんど東京かも」
「ええっ」
東京といえば新幹線を使ってでも2時間以上はかかる場所。
それを春休みほとんどといったら、少なくとも10日間以上?
「そんなに長いこと、なにしに行くの?」
「いろいろ」