グッバイ・メロディー


時間も忘れてこうちゃんの紡ぎだす音楽の世界にとっぷり浸りきっていると、最高のギタリストの右側に、最高のボーカルがやって来た。

アキくんだ。


「まーた、ふたりの世界な?」


からかって言うけど、これはふたりの世界じゃなくて、こうちゃんの世界をわたしがのぞき見しているだけだよ。

だけどわたしがそんなしょうもないことを伝える前に、アキくんはマイクを手に取り、こうちゃんが即興で奏でるメロディーに、即興で歌詞を載せ始めてしまった。


支離滅裂な日本語と意味不明な英語がゴチャマゼになった言葉。

たぶんこれは、アキくんにしか使えない言語。


手を止めないまま、こうちゃんが口元だけで笑う。

アキくんの伸びやかな歌声に笑みが混じる。


ふたりは、たったいまこの世に産み落とされた音楽をおもちゃにしながらじゃれあっているみたいだ。

無邪気な子どものように。
それでいて、最高のミュージシャンとして。


いつのまにかうしろでトシくんもベースを抱えている。

やがてヒロくんがドラムの前に座ると、とめどない空気の振動を捕まえるリズムが加わり、刹那的だった音楽は確かな“曲”へと姿を変えていた。


全身に鳥肌が立っているのがわかる。

心臓が体の隅々までへ血液を運んでいくのを、熱として感じている。


こんなふうに偶然的に曲ができてしまうことはままあって、だけどいつも、こんな奇跡みたいな瞬間に立ち会えていること、特別に思うんだよ。

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