グッバイ・メロディー
待ち人は、西の地平線が真っ赤な太陽をとっぷり飲み干してから、ようやっと姿を現したのだった。
普段は優しくきゅっと細くなってばかりの目が、もうまんまるに開いている。
トシくんにとってわたしたちの出現はあまりに予想外だったようで、状況を飲みこむまでに数秒くらいはかかっているみたいだった。
「なんで……」
あの完全無敵に見えるトシくんでも、そんなあいまいな質問を、こんなふうに恐る恐るぶつけることがあるんだ。
「決まってんだろ? おまえを連れ戻しに来たんだよ」
口角を上げたまま、アキくんがきっぱりと答える。
とたん、トシくんの顔が曇った。
そして小さく息を吐く。
ため息とは少し違うニュアンスだった。
そうしてなにか言いかけて、一度やめると、薄いくちびるを再び開いたのだった。
「その話は終わったはずだろ」
いつもとはぜんぜんちがうしゃべり方。強い語気。
なんだか別の人みたい。
「終わらなかった」
一歩踏み出そうとしたアキくんを制止するようにその肩をぐっと掴んだこうちゃんが、いたって落ち着いた様子で、かわりに言った。
「終わってなかった」
ごめん、
と謝ったこうちゃんに、トシくんがあからさまにうろたえる。
「やめろよ。それは洸介の台詞じゃないだろ」
「うん、でも、トシの大事なもん、俺は一緒に大事にしてやれないと思ったから」
もういちど、ごめん。