グッバイ・メロディー
「トシがいないと病院は続けられないかもしれないけど、俺たちも、トシがいないと続けられない」
あまりに残酷な2択だと思った。
あまりに耽美な、口説き文句だと思った。
「なに言ってんだよ。ベーシストなんて世の中にごまんといるよ。俺よりうまいのだっていくらでも」
「ほかはいない」
じゃり、と、トシくんのスニーカーが色あせたアスファルトを擦った。
半ばあきれたような笑みだったのが、どこか怖気づいたような色に変わる。
「トシ以外に、うちにベーシストはいらない」
届いてほしい。
こうちゃんのまっすぐな言葉が。
アキくんの力強いうなずきが。
ヒロくんの懇願するようなまなざしが。
どうかなんの誤解も翳りもなく、みんなの想いをクリアにのせたまま、トシくんのところまで届きますように。