グッバイ・メロディー
「たぶん、医者になったらトシは、『バンド続けてればよかったかな』ってどっかで思うよ」
最後の切り札を見せるように、こうちゃんが口を開いた。
「でも、俺たちと一緒にいたら、トシは『医者になっとけばよかったかな』とは絶対に思わない」
ふっと、糸が切れたみたいにトシくんが力なく笑う。
「なんだよ、それ」
「そんなことは俺たちが絶対に思わせない」
こうちゃんはとてもまじめだった。
「ほかの誰でもなく、俺たちにはトシが必要なんだ」
トシくんはずっと笑っていた。
なんだよって茶化すように言いつつ、どこか声を詰まらせて。
超絶クールな低音を生み出す右手が、その目元を隠すように、そっと顔を覆った。
長くて、ちょっと硬そうな指。
こうちゃんとよく似たその職人のような指先は、わたしには“ベーシスト”以外のなにものでもないように見えて、しょうがないんだよ。