グッバイ・メロディー


「おやじが欲しいのは“俺”じゃなくて、いつも“後継ぎ”だった」


こないだは「父さん」と呼んだはずのその人のことを、トシくんはとても自然な響きで「おやじ」と言った。


「さすがに、勘当されるかもな」


目元を覆っていた右手がするりと、重力に従って外れる。

そして少し痛みの残った瞳がいつものように、だけどやっぱりほんの少し切なく、きゅっと細くなった。


いきなりアキくんがトシくんの首に右手をまわし、反対側をこうちゃんにそうした。

そのまま弟を呼ぶ。

なぜかついでに、わたしも呼ばれる。


みんなで肩を組んだら小さくて大きな円が出来上がった。


輪っかの外側で、それぞれ帰宅していくエリートたちが、好奇の目で、もしかしたら迷惑そうに、こっちをじろじろ見ているのが伝わってくる。

それでも、さっきまであんなに恐ろしく見えていた『T大合格実績No.1!』が、こうやってみんなでくっついてるだけでぜんぜん怖くもなんともないの。


不思議だね。

あまいたまごやきは駆け出しの勇者じゃなくて、合体して戦うタイプのロボット戦士なのかもしれないよ。


自分でもびっくりするくらいつまんないことを考えちゃった。

< 169 / 484 >

この作品をシェア

pagetop