グッバイ・メロディー
なつかしいね。
新歓で演奏してくれた、ひとつ上の先輩たちのバンドがすごくかっこよくて、なかでもベースの人が本当に素敵で、興奮のままにこうちゃんともはなちゃんともその話をしたことを覚えている。
だけどこうちゃんだけはきっと、誰ともぜんぜん違う目でトシくんのことを見ていたんだ。
あのベーシストいいな、
というひとりごとのようなつぶやきが、翌日の電撃スカウトに繋がっていたなんて、そのときはまったく思いもしていなくて。
「びびったよ。クラスも名前も言わないでいきなり『俺たちとバンドやりませんか』だもんな」
まだ入学して数日しか経っていないというのに、先輩の教室が立ち並ぶ廊下を、こうちゃんはきっといつものポーカーフェイスのまま歩いたんだろう。
パリッとした新品の制服を着て。
先輩たちの視線なんか、ひとつも気にしないで。
「ぶっちゃけ最初は、なんかめんどくさそうなのに声かけられちゃったな、まいったなって思ってたんだけどな」
誘いを承諾してくれたトシくんははじめ、兼任という形をとっていた。
もちろん先輩たちとのバンドが優先で、空いた時間にこっちに来てくれるという感じ。
それが、いつのまに。
「あのとき『いいよ』って答えたのが悪かったかな」
「あんなベース弾いてたのが悪い」
なんだかどこかで聞き覚えのあるようなせりふを、こうちゃんが、とてもうれしそうにこぼした。