グッバイ・メロディー
⋆°。♬


ワンマンライブをすることにした。


というビッグニュース、古典の宿題と戦っているときにあまりにさらっと言われたものだから、思わず聞き逃してしまうところだった。


「いま、なんて?」

「ワンマン」


いちばん重要な単語だけの、簡単な答えが返ってくる。


「ワンマン……」


言われたカタカナを同じようにくり返すと、こうちゃんはアコギを触る手を止めないまま、小さくうなずいた。

こうちゃんの指はきっとこうちゃんとは別の生き物なんだなって、こういうとき本当に思う。


最近のギタリストは貰ったばかりのアコギにべったりだ。

名前はアコちゃん。
名付け親は、もちろんわたし。


「ぜんぜん大げさじゃない、記念ライブみたいなもんだけど」

「記念?」

「ワキさんが、収益は上げなくていいから、せっかくだしこのタイミングでちゃんと地元でやっとけって。それに浅井さん……レーベルの人も、いいなって乗っかってくれて」


チケットノルマは課さないという今回のライブは、あまいたまごやきを実の弟たちのようにかわいがってくれている脇坂さんの大きな厚意と、これをプロモーションにしたいというレーベル側の小さな野望の、利害の一致による計画だとこうちゃんは説明してくれた。


「それに俺もワンマンはやってみたいと思ってた」


本当にうれしそうな顔をするんだ。

普段はなかなか見せてくれないこの表情を見ると、わたしもぎゅっとうれしい気持ちになる。

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