グッバイ・メロディー
「なーんか。ほだされた、よねえ」
ソファから一段降りてくると、わたしの目の前に腰かけ、みちるちゃんは息を吐いて笑った。
そして煙草に手を伸ばす。
愛用のジッポが、その先端に静かに火をつける。
「つきあってる……の?」
「うーん」
「ええっ、違うの?」
「いやー。きのう、ついに真剣な顔されちゃってね。おねーさんと遊んで経験値上げたいだけだと思ってたからさすがにびびったのと、なんかちょっと意外で、かわいいなあと思っちゃって」
「もしかして好きって言われたの?」
「わはは。彰人ってわりとそういうトコちゃんとしてんだね?」
“彰人”
ずっと『彰人くん』と呼んでいたはずなのに、みちるちゃんはいま、アキくんのことをとても自然に呼び捨てにした。
「いったいこんな年増のどこがいいのやら。だってあたし、あんたらより7つも年上だよ?」
「みちるちゃんは年増なんかじゃないもん!」
いつも完璧に美しくて、体の真ん中に一本、揺るぎない芯の通っているみちるちゃん。
どうにも憧れてしまうのは年齢のせいじゃないはずだよ。
「んー、けどやっぱ、あたしにとって彰人って、まだまだお子ちゃまなんだよねえ」
たしかに、お酒と煙草をおいしそうに仰ぐみちるちゃんにとって、まだどちらも許されていないアキくんは、どうしても子どもに見えてしまうのかもしれない。
年の差という問題はわたしが思うよりけっこう大きいのかな。
これまでろくに恋愛もせずに生きてきたからぜんぜん知らなかった。
気になって聞いてみたはいいものの、なんだかうまい具合の返事が見つからないよ。