グッバイ・メロディー


あまりにもわたしが長いこと黙りこんでいるからか、みちるちゃんがぷっと吹きだし、まだまだ残っている煙草をじゅうっと灰皿に押しつけた。


「それに、バンドマンとの恋愛はあんまりよくないかなあと思ってね。もう懲りたよ」


やっぱりバンドマンとつきあっていたことがあるんだ!

きっとそうなんだろうなとは思っていたけど、本人の口から直接聞くと、どぎまぎする。


「そんなに大変だったの?」

「まあねえ。まるごと全部がそうだとは言わないけど。もちろん幸せな瞬間も、楽しいこともたくさんあったよ」


みちるちゃんは、どんな男の子を好きになってきたんだろう。

どういうことで笑って、どんなときに泣いてきたんだろう。


過去になにがあって、『もう懲りた』なんて言うんだろう。


「ねえ、ずけずけ踏み入ってごめんね。でもどうしても聞きたいんだけど、アキくんのこと……ふったの?」

「ええー?」


もう、さっきから笑ってごまかしすぎだ。


みちるちゃんはそっと、忘れ物だというネクタイをテーブルの上に乗せた。

それをくるくると丸める手つきがどこか優しくて、なんとなく、胸がぎゅっと締めつけられた。


「まあ、首を縦に振ったわけではないんだけど」

「うん」

「若くてかわいい男の子にほだされちゃったよ。やりたい盛りの男子高校生だってことはわかってたけど、受け入れちゃった」

「んん? それはつまり、つきあうってこと? なの? んん?」

「えーヤダ、季沙ってほんとにかわいい」


ヌーディーベージュのワンカラー。

とてもシンプルなネイル、だけど色っぽい指先に、ぐしゃりと髪を撫でられる。

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