グッバイ・メロディー
「季沙」
この半年間を思い返しながらひとりで胸を震わせていると、突然名前を呼ばれて現実に引き戻された。
いつもの優しくてぽやっとした声。
こうちゃん。
「どっちが好き?」
チョコか生クリームかの話をされているのかと思いきや、こうちゃんがいきなり6本の弦を自由自在に弾き始めたので固まってしまう。
どうやら、曲に入れるメロディーのことを言っているみたい。
ギターソロ、というやつだね。
「どっちも好き!」
率直な感想を伝えると、こうちゃんはムッと不服そうな顔をした。
「それじゃ意味ない」
「だってどっちもかっこいいもん」
「真剣に聞いてる」
わたしだって真剣に答えているんだけどな。
こうちゃんはムッとしたのを解凍しないまま、もういちどジャカジャカとエレ吉くんをかき鳴らし、今度こそどうだって顔をこっちに向けた。
「……どっち」
そんな目で見られても困っちゃう。
なんで、こんなド素人に聞くの?
「良し悪しなんてわかんないよ。わたしじゃなくてみんなに聞いてよーう」
「“良し悪し”じゃなくて“好き嫌い”」
子どもに言い聞かせるみたいに訂正された。
「季沙の好きなほうがいい」
きょうもスタイリッシュでかっこいいエレ吉くんを抱えたまま、甘えるみたいに瞳を覗きこんでくるんだからな。
こうちゃんは、どうすればわたしをたらしこむことができるのかをわきまえている。
みんなこうちゃんのこと、クールだとか落ち着いてるとか近寄りがたいとか言うけど、ほんとは誰より甘えんぼうでかわいい男の子だということ、そろそろ世界中に教えてあげたいよ。
「どっちも好き。……でもどっちかというと最初のほうが好き。僅差だよ!」
「ん、わかった」
迷いもせずにソッコーでうなずいちゃうなんて。