グッバイ・メロディー


ひとしきり笑い終えたみちるちゃんがやっと呼吸を整えるころには、コーナーはいよいよ締めに入っていた。


こうちゃんからは『ほんのちょっと』と聞いていたけど、ここまでで約15分。


思ったよりぜんぜん長かったな。

もっと短い時間、ほんの5分くらいかと思っていた。


それでもこうちゃんの声を聴けたのは、たぶん5分にも満たないか。


5分どころじゃない。

『瀬名です』と『ないです』と『抱き心地』だけ。
冗談でしょ!


だけどこうちゃんにしたらこれは本当によくしゃべったほうなの。

だって放送されているんだよ。

がんばったよ。


このあと会ったら、ちゃんと褒めてあげないとな。


「では最後に、曲紹介をお願いします」

「えーと……夏っぽく、疾走感のある……まだ梅雨だけど。でもこれから聴いてもらうのにすごい気持ちいい曲になったかなって思ってます。アキがイメージ通りの詞をつけてくれたんで、それにも注目して聴いてほしいです」


びっくりした。


だって、いましゃべったの全部、こうちゃんだった。

毎日じとじと日本列島を湿らせている雨が、もしかしたらあしたは雪に変わるんじゃないのってわりと本気で思った。


隣でみちるちゃんも驚いたように目を開き、それからくすりと、小さく笑う。


「すごいじゃん。洸介くん、がんばったね」


ほんとうに!


これはもう絶対にたくさん褒めてあげよう。

こうちゃんの好きな甘いもの、お腹いっぱい食べさせてあげよう。

それから今夜は、こうちゃんのベッドでいっしょに寝よう。


ラジオから流れるあまいたまごやきの新曲を聴きながら、なんだかとても、不思議な気持ちになった。

幸せな気持ちになった。

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