グッバイ・メロディー
⋆°。♬


どれだけ真剣に授業を受けてもちんぷんかんぷんな数学の課題と闘っているわたしの横で、こうちゃんはいつものようにギー子さんとたわむれている。


“レスポール”はこうちゃんが中学2年の春にやって来たエレキギター。

染めたてのジーンズみたいな藍色と、少し透けて見えている木目が、どこまでもお洒落なのにほんのりあたたかみを感じるデザインだ。


「ねーこうちゃん。このページってこうちゃんのクラスもう終わった?」


果ての見えない数字の羅列に飽き飽きしてシャーペンを投げだし、ギターに夢中の幼なじみのほうへ目を向けた。

テーブルに左頬を委ねているから、抱えられているギー子さんが上下逆さまに見える。


「ん?」

「これ、ここ、変域のとこ」


すぐ傍らのギタースタンドにギー子さんを立たせ、こうちゃんがわたしの隣へやって来た。

まだ頭のなかでギターを弾いているのか、ぼんやりした瞳が参考書とノートとを行ったり来たりしている。

やがて低い声が「ここやった」とつぶやき、長い指が転がっている水玉柄のシャーペンを拾い上げると、こうちゃんはさらさらと問題を解いてしまったのだった。


「……いっつも勉強そっちのけでギターばっか弾いてるくせになんでそんな頭いいの」

「数学は季沙ができなさすぎるだけ」

「うるさいなーもー!」

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