グッバイ・メロディー
「季沙」
この1週間ずっと“先輩”の顔をし続けていたこうちゃんが、急に甘えたようにくっついてきた。
「どうしたの?」
「べつにヒロがいるのはいいけど、季沙がいないのはもう限界」
思わず笑ってしまった。
うしろからまわされている腕が、不満そうにぎゅうっと力を入れる。
「いっしょに寝るの?」
「うん」
「ねえ、ヒロくんがこうちゃんのこと『異次元』って言ってたよ」
「誰も関係ない」
首元にふわふわの髪が触れてくすぐったいな。
久しぶりの感触。
やさしい、せっけんのにおい。
「ねえ、こうちゃん。わたしもひとりで寝るのちょっとさみしかった、かも」
ん、とくぐもった声が耳のすぐ近くに落ちた。
「眠たくなってきちゃった」
「俺も」
「こうちゃんはいつでも眠たいじゃん」
「うん」
黒いシーツに、黒い枕。
いつもの真っ黒なベッドに引きずりこまれると、そのまま、身動きがとれないくらいの強さで抱きすくめられた。
「おやすみ、こうちゃん」
「おやすみ」
「ほんとに、お疲れさま」
大人と子どものあいだでもがき苦しんでいる男の子が、どうか今夜はやさしい眠りに落ちていけますように、と。
世界でいちばん居心地のいい宇宙船のような腕のなかで、どうにもそう、祈らずにはいられなかった。