グッバイ・メロディー
⋆°。♬


夏休みが明けて登校してみたら、学校でのこうちゃんの立場がずいぶん変わっていて驚いた。


それに伴ってわたしの周りもけっこう変わった。

知らない人に話しかけられることが増えて、“あまいたまごやきのギタリスト”の話をされることが多くなった。


カーモのフェスに出るというのが、いったいどういうことなのか。

わかっていたようで実はぜんぜん理解できていなかったその実態を、まさかこんなふうに思い知ることになるなんて。



「ねえねえ相川(あいかわ)さん、瀬名くんすごいね! びっくりしちゃったー!」

「フェス行っちゃおうかなあ!」


いままでしゃべったこともないコたちに、廊下ですれ違いざまにいきなり話しかけられて、はなちゃんは驚くよりも先にむかっとしたらしい。


同性のわたしでさえ見とれてしまうほど美しい顔が瞬時にぐにゃりとゆがむ。

そして、おそろいのポニーテールがよく似合う女子ふたりを交互ににらむと、ぞっとするほど冷たい声で「だから?」と言った。


「それ、わざわざ季沙に言う必要ある? 瀬名くん本人に言えばよくない?」


ぎょっとしたのはわたしだけじゃない。

思いもよらない言葉をぴしゃりと投げつけられた彼女たちは、浮かべていた笑顔を引きつらせ、なにか言い訳みたいなことをならべながらどこかへ行ってしまった。


そのうしろ姿を眺めつつ、壊れたロボットみたいに口をぱくぱく動かしても、どうにもうまいことしゃべれない。

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