グッバイ・メロディー
「みちるちゃんとはずっと連絡とりあってないの」
そもそも、みちるちゃんがきょうのライブのことを知っているのかさえわからない。
なにも知らないままだったら『おいでよ』と気軽に連絡していたと思うけど。
どうしても、どうにも、それはできなかった。
こうちゃんはなにか考えるような顔をして黙りこんだ。
そしていきなりふっと顔を上げると、わたしの手をくいと優しく引っぱったのだった。
「とりあえずあんころ餅食べにいこう」
「えええ……いまなの?」
世界マイペース選手権があったら優勝するのはこうちゃんで間違いないな。
ぐいぐい進んでいく腕につかまって歩いている途中、中庭で衣美梨ちゃんを見かけた。
声をかけに行こうか迷って、隣にいるのがトシくんだってことに気づいてしまい、なんとなくやめておく。
「ねえ、あのふたりってつきあってるの?」
こうちゃんに聞いてみても、いつもの「さあ」という素っ気ない返事。
「“俺たちに関係ない”?」
茶化して言うと、ムッとした顔がちらりとわたしを見下ろした。
「俺は、自分のことで手いっぱい」
「なにそれ? 悩んでることでもあるの?」
「うん。生まれたときからずっと、ひとつだけ」
まじめな顔で淡々と言い放つから、そんなジョークみたいなせりふでも、本当か嘘かぜんぜんわからない。