グッバイ・メロディー
結局トシくんと衣美梨ちゃんに声はかけないで、家庭科部が茶屋を開いている3年3組の教室にはふたりで向かった。
すっかり頭のなかがあんころ餅でいっぱいのこうちゃん、さっきまでの思いつめたような顔が嘘みたいに、幸せそうにお花をポンポン散らしている。
「あれっ、思ったより早く来た」
大和撫子バージョンのはなちゃんが、わたしたちに気づくなりすぐさま近寄ってきてくれた。
かなり繁盛しているお店の中心に立ち、普段は幽霊部員をしているとは思えないほど忙しく働いている彼女の額には、すでにうっすらと汗が光っている。
わたしは客寄せパンダだよ、と謙遜して言うけど、お顔が規格外に美しいとそんな役目まで任されてしまうんだな。
「はい、これは瀬名くん用。みんなにはナイショね」
秋らしい、もみじのモチーフで彩られたかわいい紙皿。
手渡されたそれの上には、ちょっと洒落にならない量のあんころ餅がドカドカ乗っていて、こうちゃんよりもわたしが絶句した。
「は……はなちゃん、甘やかしちゃダメだよ……」
「どうせ余るからいいよー。おいしく食べてもらったほうがこのコたちも本望だと思うし」
たしかに、こうちゃんはきっと地球上の誰よりも、このこんもりした黒い山をおいしく食べてくれると思うけど。
でも、余るとか、余らないとか、そういう問題じゃない。
わたしはこうちゃんの内臓が心配なのだ。
「きょうだけだからね!」
普段は小食な男子のお口にぽいぽい吸いこまれていくあんころ餅たちは、いったいどこへ消えていくのだろう。
そんなくだらないことを考えながらわたしもひと口食べた。
あんまりおいしくて、思わずこうちゃんを見ると、ほらね、みたいな顔をされたのでほっぺに軽くパンチしてやった。