グッバイ・メロディー
「――あの、本当にウザイです」
わたしがひとつを、こうちゃんが全部を、いっしょに食べ終わろうとしていたくらい。
いつもさっぱりした温度でハキハキ話す気さくな声が、氷点下まで冷えきった寒さで耳に届いてきた。
反射的に顔を上げる。
若草色に身を包んだ美少女が、教室の入り口付近で、他校の制服を着た複数の男の子に絡まれているのが見えた。
「なあいいじゃん、名前だけでも教えてよ?」
「しつこいです。用がないなら帰ってもらえませんか」
「ボクたちお姉さんに用があるんですけどダメですかー?」
下品な笑い声が不愉快に鼓膜を撫でる。
友達があんなものを頭上から降り注がれているのを見てしまったら、さすがに我慢ならない。
とっさに立ち上がったのに、次の瞬間、優しい強さでそっと腕をつかまれた。
なんで、と手のひらの主をふり向いたところで、その声は届いてきたのだった。
「超絶かわいーからナンパしたい気持ちはすげえわかる、だからマジごめんなんだけど、この子オレの彼女だから今回は手引いてもらっていいっすか?」
顔なんて見なくても聴けば一瞬でわかってしまう、世界でたったひとりだけが使う、キラキラボイス。
「彰人っ」
彼の名前は、わたしのかわりに元カノジョが口にした。