グッバイ・メロディー


その顔面の整いっぷりに圧倒されたようで、はなちゃんに絡んでいた男子たちは「男付きかよー」と文句をつけながらあっさり去っていく。

彼らのうしろ姿を見送ったあとで、アキくんがおもしろそうにくつくつ笑った。


「花奈実ー、オレの目を盗んでほかの男にナンパされてちゃダメじゃん?」

「……この茶番っていつまで続くわけ」

「助けてもらっといてその言い草はなんなんだよ!」

「助けてもらったより、もっとメンドイのに絡まれたって感覚のほうがデカイんですけど」


げんなりした顔で息を吐いたはなちゃんが、肩に組まれていた腕からするりと抜け出していく。


教室はすでにざわついていた。


ハナミのカレシってあんなにかっこいいの、さすがだな、お似合いすぎる、というか大学生のカレシとは別れたのかな、

それぞれが好き勝手しゃべるのを聞きながら、はなちゃんがもっとげんなりと顔を歪ませた。


「何時までここにいんの? 終わったらデートしねえ?」

「さんざん遊び尽くしておきながら、元カノにまで手を出すのはさすがにナンセンスじゃない? それとも新しい女を探すよりお手軽だって思ったわけ?」

「そりゃ、好きだったものどうしのほうが手っ取り早いだろ」


行儀よく着物の足元に収まっている草履が、突然もういちどアキくんに向かって歩きはじめた。

元カノジョは元カレシの目の前で歩を止めると、間髪いれず、本当になんのためらいも迷いもなく、彼の左頬をおもいきり打ったのだった。


バチンという、気持ちよさすら感じる、あまりにクリアな音。


「いいかげんにしたら」


その余韻を残したまましんと静まり返った教室に、厳しい声がぽつんと落っこちた。

< 278 / 484 >

この作品をシェア

pagetop