グッバイ・メロディー
その顔面の整いっぷりに圧倒されたようで、はなちゃんに絡んでいた男子たちは「男付きかよー」と文句をつけながらあっさり去っていく。
彼らのうしろ姿を見送ったあとで、アキくんがおもしろそうにくつくつ笑った。
「花奈実ー、オレの目を盗んでほかの男にナンパされてちゃダメじゃん?」
「……この茶番っていつまで続くわけ」
「助けてもらっといてその言い草はなんなんだよ!」
「助けてもらったより、もっとメンドイのに絡まれたって感覚のほうがデカイんですけど」
げんなりした顔で息を吐いたはなちゃんが、肩に組まれていた腕からするりと抜け出していく。
教室はすでにざわついていた。
ハナミのカレシってあんなにかっこいいの、さすがだな、お似合いすぎる、というか大学生のカレシとは別れたのかな、
それぞれが好き勝手しゃべるのを聞きながら、はなちゃんがもっとげんなりと顔を歪ませた。
「何時までここにいんの? 終わったらデートしねえ?」
「さんざん遊び尽くしておきながら、元カノにまで手を出すのはさすがにナンセンスじゃない? それとも新しい女を探すよりお手軽だって思ったわけ?」
「そりゃ、好きだったものどうしのほうが手っ取り早いだろ」
行儀よく着物の足元に収まっている草履が、突然もういちどアキくんに向かって歩きはじめた。
元カノジョは元カレシの目の前で歩を止めると、間髪いれず、本当になんのためらいも迷いもなく、彼の左頬をおもいきり打ったのだった。
バチンという、気持ちよさすら感じる、あまりにクリアな音。
「いいかげんにしたら」
その余韻を残したまましんと静まり返った教室に、厳しい声がぽつんと落っこちた。