グッバイ・メロディー
アキくんは笑うと思ったんだ。
いつもみたいにからりと笑い、痛えよ、なんて軽く言うんだろうなって。
だけど彼はいつまでたっても頬を打たれた姿勢のまま、顔すら上げようとしない。
「いまの彰人と、デートなんか死んでもしない」
ぴりりとした厳しさは変わらない。
だけどさっきより、どこかほんのりまるい声だと思った。
「……でも、叱るくらいなら、してあげてもいいよ」
そう言ったはなちゃんはなんともいえない表情をしていた。
あきれたような。怒っているような。笑っているような。はたまた、悲しんでるような。
慈しんで、いるような。
「なにがあったか知らないけど。“なにか”、あったんでしょ」
アキくんの右の指先がそっと伸びて、若草色の着物、その袖を、子どものように掴んだ。
もういちど腕を引っぱられたらお尻がぺたんと椅子に沈んだ。
全身から力が抜けていく。
任せておけばきっと大丈夫。
手首を引っぱったこうちゃんの手、わたしが思ったのと同じことを言っている。