グッバイ・メロディー


特設ステージ前にはすでにたくさんのギャラリーが集まってきていたけど、いくら探してもみちるちゃんらしき人は見つからなかった。


何度スマホを確認してもメッセージはいっこうに読まれず。

ああ、たぶん無言が返事のかわりなんだな、と思っているうちに、一夜限りのスペシャルライブはとうとう始まってしまったのだった。


出てきた4人を見てびっくりした。

アキくんとヒロくんがうちの制服を着てる!

おそろいの制服を身にまとった兄弟の圧倒的かっこよさに、あちこちから黄色い悲鳴が夜空にポンポン打ちあがる。


「瀬名くんが制服でステージ上がってるの新鮮だね」


たしかに、いつも制服を着て“高校生”しているこうちゃんからは、バンドマンの感じが微塵もしないもんね。


いっしょに大きくなってきたこうちゃんと、ギタリストの瀬名洸介が、なんとなくいまはじめて繋がったような。

そういう、不思議な感じがした。


こうちゃんは、“こうちゃん”をひとつずつ置いて、ゆっくり“瀬名洸介”になっていってるのかもしれない。

こんなことを言っても、きっと誰にも、理解してもらえないかな。


ほんの20分程度のあいだに、あまいたまごやきの4人は、グラウンドに集まってきた全員の心を簡単にわしづかみにしてしまった。


「ありがとうございましたー! よかったらライブにも来てくださーい! あ、CDも売ってるんで買ってくださーい!」


最後に笑いながらアキくんがそう言い残すと、バンドマンたちはあっさりステージから消えていったのだった。


よかった。アキくん、笑っていた。歌っていた。

無理にそうしているのだとしても、ちゃんと元気そうだった。


きっと、はなちゃんのおかげ。

< 283 / 484 >

この作品をシェア

pagetop