グッバイ・メロディー


「……あ」


声が漏れてしまったのは仕方がなかった。


見慣れた黒のショートヘアが、ぽつんと夜の闇に浮かんでいるのが見えた。

耳元にぶら下がるいくつものシルバーが、白い月明かりに淡く照らされている。


華奢な背中がゆっくりとふり返った。


その数秒のあいだに、わたしはどういう顔をしていればいいのかとても悩んだというのに。

彼女は目が合うなり、ぱっと笑ったのだった。拍子ぬけ。


「季沙! と、隣の美少女は花奈実ちゃん……だっけね? ライブのときのコだね」


はなちゃんが小さく頭を下げる。


「せっかく連絡くれたのに返事できなくてゴメン。仕事だったんだ」


まさか、本当に仕事だったなんて。


そうだよね。みちるちゃんがわざと連絡を無視したりするはずない。そういう人なんだ。

知っていたのに少しでも疑ってしまって、ちょっと、罪悪感。


「途中からになっちゃったし、遠くからしか見れなかったんだけど。ちゃんと見たよ、ライブ。誘ってくれてありがとね」

「ううん……。来てくれてありがとう」


それ以上はなにも言えなくて黙りこんでいるわたしに、みちるちゃんは困ったように笑った。


「いろいろと伝えないままでごめんね。……もう知ってるよね、たぶん」


はっとする。


これは、みちるちゃんから言わせたらいけない話題だった。

やっぱり本当はわたしから連絡するべきだったんだ。


全部知っているくせに知らないふりをして、なにもできないからって考えないようにして。

ゴメンはみちるちゃんが言うせりふじゃない。

絶対に、わたしが言わないといけない3文字だった。

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