グッバイ・メロディー


「あいつとつきあってたことがあるけど、わたしにはそのときほかに好きな人がいました。ぜったい報われない、かわいそうな片想いでした。それを拾い上げてくれたのが、彰人だった」


それは、ぜんぜん知らない物語。


「彰人だってべつにわたしのこと好きじゃなかったです。むしろ女の子なんて選びたい放題で。それでも、あんまりわたしが不幸な顔をしてたから、見かねて手を差し伸べてくれたんだ。『オレといっしょにいるともうちょっと楽しいと思うけど』ってバカなこと、なんでもなさそうに笑って言って。好きでもなんでもない女と、つきあってくれたんです」


大粒の輝きが長いまつげに支えられている。


「自分本位に見えて、あいつはいつだって誰かの気持ちを優先してる。だからあなたの理不尽で自分勝手な別離を、自分の気持ちを殺してでも受け入れようとしたんでしょ。あなたのことがすごく好きだけど、すごく好きだからこそ、苦しめたくなくて『わかった』って言ったんでしょ」


ゆっくり、みちるちゃんが顔を上げた。

そして目の前で泣いている女の子の頬に手を添えると、打つのではなく、そっと抱き寄せたのだった。

< 287 / 484 >

この作品をシェア

pagetop