グッバイ・メロディー
「季沙、帰ろう」
こうちゃんがそっとわたしの手を取った。
当たり前みたいに繋がる指先に、きょうはわたしのほうが甘えたい気持ちになってしまう。
「こうちゃん、わたしね、なんにもできないんじゃなかったよ」
「うん」
「なんにもしなかっただけ。みちるちゃんにいっぱい『ごめん』って言わせちゃった」
自分はこんなにも非力だったのかと思い知った。
思えばずっと傍観していただけな気がするよ。
とても、情けない。ふがいない。悲しいな。さみしい。
「きょう、いっしょに寝てもいい?」
横断歩道を渡る手前で信号が赤に変わる。
おもむろに歩を止めたこうちゃんのギターケースにぎゅっと抱きつく。
かたくてまるい、世界に唯一の手ざわり。
「人を好きになるって、むずかしいね」
「うん、でも」
黒い空の真ん中にぽっかり浮かんでいる月を見上げた横顔は、なんだかまるで知らない人みたいに大人びていて、どきどきした。
「突き詰めればシンプルなことなんじゃない」
信号が青に変わった。
歩き出した幼なじみの背中を慌てて追いかける。
伸ばした手を確実に掴んでくれる手のひらは、今夜も泣きたいくらいにあったかくて、ダメなわたしをまるごと許してくれているような気がした。