グッバイ・メロディー
「貧乏でも、いびつでも、毎日笑ってて、楽しくて、幸せで、あったかくて、あたしは勝手に、このままずっとふたりで生きていくんだって思ってた」
おもむろに煙草に火をつけると、もう少女でなくなった彼女は、大人の顔をして笑った。
「『東京に行く』って言われたのはホント突然でね。才能のカタマリみたいなマコちゃんと一緒に始めたバンドが思いのほか大きくなって、こんな田舎なんか飛び出して、もっと広い景色を見たくなっちゃったんだろうね。男はいつまでたっても子どもだよ。夢をあきらめることを知らないの。夢に捨てられるまで、どこまでも追い続けるんだよ」
置いていかれるつもりなど毛頭なかったみちるちゃんは、ついていく、と返事をしたそうだ。
だけど脇坂さんは首を横に振った。
「『なんの確証もない場所に連れていけるわけねえだろ』が、ふられ文句。……その瞬間、あたしたちは終わった」
ぷかぷか、白い煙が天井めがけてゆったり浮かんでいくのを、わたしは現実じゃないみたいな気持ちで眺めていた。
「マコちゃんのフェスで、手の届かないようなでっかいステージに立ってる彰人に、あたしを連れていかなかった真二の姿がどうしてもダブった」
黒いマスカラのまつげ、その下で厳重に守られている目が、まばゆそうにぐっと細くなる。
「ださいよね、ほんと。いつまで引きずってんだろうね。いつまで、引きずってくんだろう」
「……まだ、脇坂さんのことを好き?」
深いグリーンに装いを変えた指先が、限界まで短くなった煙草を灰皿に押しつけた。
「たぶん永遠に、好き」
そしてきっぱりと言った。