グッバイ・メロディー


こうちゃんは耳元で小さく笑い、こっちむいて、と甘い感じに言った。


「なんにも伝わってなかった?」


ほっぺた、今度はつままれるんじゃなく、そっと撫でられる。


「俺の気持ち、ほんとに少しも感じてなかった?」


そう言われるともう思い当たるフシしかないの。


手をつないだり、ぎゅってしたり、いっしょに寝たり、優しくしてくれたり、甘えてきたり、やきもちやいたり、

そりゃそうだよね、と思ってしまうことばかりで。


それも全部、いまとなっては、だけど。


「伝わってた、よ」


臆病でずるいわたしが、感じていないようにふるまっていただけで。

こうちゃんはこんなにも大きな愛情を、生まれてからずっと、ずっと、惜しみなく伝え続けてくれていたんだ。


「ん、俺はこれからもずっとそうしてくから」


頬に触れている右の人差し指が、すり、とわたしの輪郭をなぞった。


「季沙もそうして。俺のこと好きって、ちゃんと教えてて」


おなかのあたりがきゅっとせまくなる。

だけどこれの正体は、苦しいじゃなく。


いとしい、だ。


「こうちゃん、大好き」


ずっと伝えたくて、伝えられなかった言葉。

これまで何度も伝えてきたけれど、これまでとはぜんぜん違う意味をもった言葉。


素直にぶつけると、こうちゃんはうれしそうな、だけど切なそうな、なんともいえない顔をした。


「俺も好き」

「こうちゃ……」

「ごめん、足りない」

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