グッバイ・メロディー


これ以上ないほど優しく、それでいてとても悩ましげに、くちびるは何度も重なった。

漫画で読んだような深いやつじゃない、ふつうに触れるだけのやつなのに、だんだん頭がぼうっとふやけたみたいになる。


「……季沙」

「ん……」

「もう、“幼なじみ”じゃなくていい?」


おでことおでこをくっつけたまま、こうちゃんは懇願するように言った。


全部わかってた、なんて言っておいて。

押してダメなら引いてみた、なんて余裕かましておいて。


本当はこうちゃんも、余裕なんて、ぜんぜんなかったのかもしれない。

こんなに切ない顔をしてしまうくらい、わたしのことを好きでいてくれたのかもしれない。


「うん……でもね、幼なじみ“兼”、恋人がいいな」


わたしはわがままだから、どちらかひとつだけを選ぶなんてできないの。


「うん」


ぶつけあう。
分かち合う。

抑えこんできた気持ち。

すれ違ったぶんだけの想い。


こうちゃんのくちびるって、ちょっと甘い味がするんだね。

こんなにいっしょにいるのにぜんぜん知らなかった。


そういうこと、まだまだたくさん、あるのかな。

それなら、もっとたくさん、知っていけたらいいな。




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